「アナログ産業」の代表格とされてきた建設産業がDX(デジタルトランスフォーメーション)にいかに取り組むかを豊富な事例集で紹介した本
「建設DX」木村駿 著
前回ご紹介した「建設業界 DX革命」は、地方の建設会社におけるDXの取り組みをストーリー展開で記した本でしたが、今回ご紹介するのは、建設・土木に関するたくさんのDXの取り組み事例が織り込まれており、最先端の業界のDX化を知ることができる良書です。
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施工管理の遠隔化は可能か?
建設業で働く人のテレワーク実施率は23.3%で全業種の平均よりも4.6%低い。本書でもパーソナル総合研究所が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い実施した調査で建設産業デジタル化の遅れが如実に浮かび上がったと、あります。
この数字は建設業全体なので、現場の施工管理や職人に絞った数字はもっと少なくなります。それだけ、テレワークができない施工管理ですが、これを犬のようなロボットが代わりにやってくれるとしたら?この技術が実用段階に入っていると紹介されています。
このロボットはソフトバンクグループ傘下の米ボストンダイナミクスが開発した四足歩行型ロボットのスポット(Spot)。 360°カメラを搭載して工事の進捗管理や工事関係者との情報共有に役立つうえ、撮影や記録を自動化することで、1週間当たり20時間分の単純作業を削減できる、とのことです。
現場職員が毎日、工事の進捗に応じて品質管理のチェックをしたり、施工状況を写真に撮ることが現場仕事の大部分を占めていましたが、これが犬ロボットにより代行されることになれば、大きく施工管理の効率化が図れます。
建設ロボット
生産性向上以外に建設会社が建設ロボットを導入する動機の1つが、無理な姿勢での作業や危険を伴う作業などを指す「苦渋作業」から人を解放することとされています。
通気性の悪い防護服を着用しなければならない「吹き付け」は、代表的な苦渋作業の一つとされ、職人の身体的な負担がきわめて大きいことが人手不足の原因となっているとして、
この苦渋作業を代行してくれるロボットが紹介されています。
この「耐火被覆吹き付けロボット」は、 走行装置、昇降装置、横行装置、産業用ロボットアームから成り、階高が5メートル、梁せいが1.5mまでの梁に耐火被覆を吹き付けられます。柱についても床面から1.5m以上の領域があれば施工が可能とのことです。
従来、耐火被覆の吹き付けは高所作業車に作業員が乗り、吹き付けのホースを持ちながら梁に耐火材を吹き付ける作業です。この作業は建築現場内でもロボットによる自動化が比較的可能な作業なのではないでしょうか。これが実現すれば、苦渋作業が一つ減ることになります。
建築分野におけるBIM活用
プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる新球場で総工費約600億円の「エスコンフィールド北海道」について紹介されています。 このプロジェクトはコンペ段階から一貫してBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を導入していたとのことです。ここでBIMについて本書での説明があります。
BIMとは、 建物の3次元モデルに材料やコスト、品質といった属性データを関連付けて、 建築の設計・施工や維持管理・運用などに活用する概念、とあります。
このプロジェクトでは「BIMを活用した3次元でのシュミレーションが欠かせなかった」とのことです。例えばスタンド(観客席)やコンコースの構成、人流シュミレーション、開閉式屋根の形状など。これらの内容をBIMを取り入れ、発注者にVR(仮想現実)で空間を疑似体験してもらい、合意形成を図ったことが紹介されています。
施工管理×AI
現場の負担を軽減し、誤設置などによる工程の遅延リスクを下げられないか。部材に取り付けたID(部材ID)をカメラの映像から自動認識するAIを、空調設備工事大手企業が大学と共同で開発している事例が紹介されています。
作業員が部材IDをカメラで撮影するとAIが自動で文字列を認識。部材の施工箇所や形状を記録した属性データと照合する。この属性データを基に、ダクトなどの施工箇所を3次元モデルに瞬時に示す、というものです。
今までは、ダクトの割付図というものがあって、その図にダクトの部材番号がそれぞれ割り振られ、その紙の図を見ながらダクト屋さんが部材ごとにダクトを組み立てていました。
それがAIにより瞬時に示され、データ化されているので効率化が図れます。
まとめ
今回はこの書籍の中から、一部のDX事例を抜粋してご紹介しました。この他にも今までの建築業界の常識から大きくはみ出している内容のものばかりで、遅れていると言われているものの、もうここまで開発なり研究が進んでいるのかと驚くことが多く紹介されています。
これらの事例を参考にして、今の自分たちの周りの建築現場でDX化やIT化したら、便利に効率的に仕事ができるようになることはないかな、と思考を巡らせ、発想してみることがこれからの建設業界を明るくしていくタネになるのではと思います。
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