部下に嫌われたくない管理職が、現場を危険にする

2026.07.28

部下への遠慮をなくして、品質・安全を守れる現場をつくる

今回のテーマは「部下に対する遠慮」です。顧客企業の現場巡回の時に、上司の工事課長と部下の「ぎこちない」やり取りを見ていて感じたことです。

建設現場には、「工程・品質・安全・原価」のクリアしなければならない課題があります。この課題に問題を起こした部下には、工事課長として、場合によっては厳しい指摘をする必要があります。しかし、部下に嫌われたくないという思い、昨今のコンプライアンスの厳格化もあり、「部下に対する遠慮」が生まれると感じます。

この問題は、あらゆる会社組織に当てはまることかと考えますが、建設現場では、時に命にもかかわるので、見逃すことができないテーマです。

一見すると、部下に強く言えない理由は「相手を思いやっているから」のように見えます。
しかし、そこには「嫌われたくない」「パワハラと思われたくない」「関係を悪くしたくない」「退職されたら困る」といった、自分を守りたいという管理職自身の心理的な不安があるのではないでしょうか。

特に現場では、人手不足が続く中、「厳しく指導して辞められたら困る」という心理が働きやすくなっています。また、最近のコンプライアンス意識の高まりから、「どこまで注意してよいのかわからない」と感じる管理職も増えています。その結果、本来指摘すべきことまで遠慮してしまうのです。

しかし、この「遠慮」は決して部下のためにはなりません。工程の遅れや品質不良、安全ルール違反を見過ごせば、本人の成長機会を奪うだけでなく、現場全体に悪影響を及ぼします。特に建設現場では、小さな見逃しが重大災害や品質事故につながります。

嫌われることを恐れずに、仕事の基準を伝えて部下を育てる

この問題を解決するために最も重要なのは、「部下を叱る」のではなく、「仕事の基準を伝える」という意識に変えることです。

管理職が遠慮してしまう理由の一つは、「注意すると嫌われる」「パワハラと思われる」という不安です。しかし、人格を否定したり感情的に叱責したりすることと、仕事の基準を伝えることは全く別です。

例えば、「何度言えば分かるんだ」という叱り方ではなく、「このルールを守らないと、事故につながる可能性がある」「この品質ではお客様に迷惑がかかる」というように、事実と理由を伝えながら指導することが重要です。部下は感情ではなく、仕事の基準を学ぶことができます。

また、管理職自身も「嫌われないこと」を意識するのではなく、「部下を成長させること」が自分の役割であると考え方を切り替える必要があります。本当に部下のことを思うのであれば、問題を見逃すのではなく、改善できるように指導することが管理職の責任です。

さらに、一方的に答えを与えるのではなく、「なぜこのような行動を取ったのか」「次はどうすれば防げると思うか」と問いかける対話型の指導も効果的です。部下自身に考えさせることで、納得感が生まれ、自ら改善しようという意識が育ちます。

加えて、普段からコミュニケーションを積み重ね、信頼関係を築いておくことも欠かせません。日頃から声を掛け、努力を認め、良い行動を評価している管理職であれば、必要な場面で厳しい指摘をしても、部下は「自分を否定された」のではなく、「成長を期待されている」と受け止めやすくなります。

建設現場では、「工程・品質・安全・原価」のどれ一つとして妥協は許されません。特に安全に関わる問題は、人命に直結します。だからこそ、管理職は「正しく指導する勇気」を持つことが求められます。

管理職に必要なのは、部下に嫌われないことではなく、安全と品質を守り、部下を成長させるために、事実に基づいて適切なタイミングで指導できることです。そのような指導を実践することが、信頼される管理職を育て、事故のない強い現場づくりにつながります。

まとめ

会社が求める管理職は、「部下に好かれる管理職」ではなく、「人を育て、現場を守れる管理職」です。人手不足やコンプライアンスの影響で、部下への指導をためらう管理職が増えています。しかし、本来指摘すべきことを見逃せば、安全事故や品質不良、工程遅延を招き、会社の信頼を損なうことになります。

そのため、管理職には感情的に叱るのではなく、仕事の基準や指導方法を身に付けさせることが重要です。事実と理由を伝え、部下に考えさせる対話型の指導を実践することで、部下の成長と主体性を引き出すことができます。

また、日頃から信頼関係を築き、良い行動を認める風土をつくることで、必要な場面では厳しい指導も受け入れられやすくなります。

建設業では、「安全・品質・工程・原価」のすべてが会社の信用につながります。だからこそ、経営者は「嫌われない管理職」を増やすのではなく、正しく指導し、人を育てられる管理職を育成する仕組みを整えることが、強い組織づくりにつながるのです。

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著者プロフィール

宮本 一英

宮本 一英

株式会社シエンワークス 代表取締役

首都圏・関東周辺を対象に『サブコン専門 人材育成支援サービス』(現場サポート・現場巡視・集合研修)を提供しております。35年間現場管理一筋で培った経験を活かし、サブコン様における「人材の育成・成長」「離職率の低減」「安全・品質の向上」を支援しています。

【資格】建築設備士/1級管工事施工管理技士/消防設備士(甲種1類)/空衛学会設備士(空調・衛生)/給水装置工事主任技術者