サブコン様の新入社員や若手社員向けの建築設備に関わる教材でいいものがないかと、たまに大型書店の建築コーナーを物色しています。最近見つけた「断面図でわかる建築設備」(柿沼整三・大澤良二共著、彰国社)という、大判の本の厚さは1㎝ないくらいの書籍を見つけ、手に取ってみました。
「断面図でわかる」というタイトルに惹かれ、パラパラとめくってみると、一戸建て住宅、二世帯住宅、歯科クリニック、保育園、小学校、レストラン、パチンコ店など、小規模の建物の断面図に設備の断面系統図が描かれ、事例とともに設備の解説がなされています。
今までの、教科書的な建築設備の概論書や初心者向けのイラストでわかるシリーズの入門書とは一線を画す中級レベル以上の技術者向けの書籍です。
この本のメッセージ
「はじめに」を読むと、著者の出版の想いが伺い知れて興味深いです。
著者は長年、建築設備設計を生業としていて、建築図が出来上がった段階から設計チームに参加していましたが、その建築図に設備スペースや設備室が描かれていないことに憂慮します。設備が設計プロセスにおいて後追いさせられることで、建築計画を左右したり、設計者の意匠的意図が実現できなかったりすることが、歯がゆいとも言っています。
「建築設備家」としての仕事とは、各種設備を建築計画に落とし込んで、建築と同化させること、そのために平面図だけでなく断面図上から建築計画を探求することで、空間の中の必要スペースがより分かりやすく見えてくると、断面図から建築全体を構築する重要性を説いています。
建築設備の系統を断面図で
さまざまな建築設備のシステムを知るためには、一般的には系統図を確認します。弊社の新入社員研修における建築設備概要の講義でも、必ず系統図を示し、分かりやすく解説しています。それだけ、系統図は建築設備のシステムを理解するうえで必須のアイテムと言えます。この本では、自然エネルギー利用設備、空調設備、暖房設備、換気設備、衛生設備、防災設備、電気設備ごとに多くのシステム系統図を分かりやすい表現で描かれており、
新入社員でも理解できる内容になっています。
断面図でわかる建築設備の事例
この本の最も魅力的な内容として、用途や構造の異なる17の建物を事例として選び、断面図とともに設備設計の特徴を紹介している点です。
この17の事例はどれも興味深いものばかりなのですが、私が一番面白いなと思った事例は、床下を設備ピットに活用した歯科クリニックの例です。
この建物は歯科診療部と住宅部を一体化した複合建築で、平面計画は2.7m角のグリッドを1単位として、縦5グリッド、横11グリッドの四角い部屋(部屋以外に中庭が11グリッドもある)がマス目状に配置されています。一つのグリッドはメインが歯科診療スペースで待合やX線室、スタッフルームなどが配置されています。地上2階建てですが、1階の建物長辺が約30mの広い敷地にゆったりと建築されているという印象です。
この歯科クリニックの建築的なレイアウトと、グリッド状の四角い部屋の連なりがまず独特で強烈なインパクトだったのと、そこからどのように設備を組み立てていくのだろうという好奇心が湧いてきます。
空調設備は、FLー700の床下ピット内に空調機(空冷ヒートポンプパッケージエアコン)を設置し、そこからダクトについても床下を通し、床吹出口から空調するという方式をとっています。つまり室内空間に設備機器類が極力露出またはシャフト等で現れないように工夫され、平面のグリッドの連続を阻害しないで建築空間をきれいに活かしているように感じました。
700の床下空間を空調機やダクトが配置されている断面図を見ると、やはりこの規模で考える床下空調設備の有効寸法は、このくらいは必要ということが見た目で判断できます。
このクリニックの設計は施主の要望、建築の意匠のこだわり、そして設備の機能すべてが一体になった、素晴らしい作品という印象を持ちました。
【サブコン社長・経営幹部の方へ】
»『人材育成・サブコン経営のヒント』コラム一覧はこちら«
この本で得られること
ご紹介した歯科クリニックは一例ですが、この他にも一般の事務所ビルには無い店舗や能楽堂など特殊な建物の事例も紹介されていて、断面図を見ているだけでも楽しくなってくる内容です。いろいろな種類の建物における建築設備の断面図を見ることで、「こういうシステムもあったのか」とか「なるほど、こういう納め方もあるよな」といった新しい設備の工夫や施工方法のアイデアなども浮かんでくるのではないでしょうか。
まとめ
自分の身の周りの仕事上での建築設備は、会社の経営上の受注方針や個人の経験などにより、一定のパターンで繰り返される場合が多いです。そういった状況でも、いつもと違う
種類の建物における建築設備がどのように設計され、施工されるのか、ということを情報として取り入れることは施工管理する人たちにとって、技術力向上のテキストになるのではと思います。参考にされてみてはいかがでしょうか。